飲食店で食中毒を防ぐには、食中毒とは何かを知り、食中毒をおこす細菌やウイルスに応じた予防策をとる必要があります。ここでは、飲食店において、食中毒をおこさないためには、どのように対策を講じれば良いかを食中毒菌別に説明します。
Table of Contents
食中毒とは
食中毒とは
食中毒とは、食中毒を起こすもととなる細菌(さいきん)やウイルス、有毒な物質がついた食べ物を食べることによって、げりや腹痛、発熱、はきけなどの症状(しょうじょう)が出る病気のことです。食中毒の原因によって、病気の症状や食べてから病気になるまでの時間はさまざまです。時には命にもかかわるとてもこわい病気です。
細菌とウイルス
細菌は、大きいものでも100分の1ミリ、小さいものでは1000分の1ミリほどしかありません。形は、桿状(棒のよう形)、球状、らせん状など様々です。細菌の特徴として、栄養があれば、自分の力で増えることができます。よって、食品に細菌が付着すれば、そこで増える可能性があります。
一方、ウイルスはもっと小さく、細菌の100分の1くらいしかありません。形は球形、正二十面体など様々です。ウイルは、細菌と違い、生きた細胞の中でしか増えることができません。そのため、食品に付着しても、生き残ることはできますが、増えることはできません。
引用:農林水産省
食肉は十分加熱する
最近は、牛肉や鶏肉だけでなく、以前は寄生虫感染のおそれがあるため生で食べなかった豚肉も生で食べる事例も出てきました。しかし、E型肝炎ウイルスのような新たな食中毒菌も報告されていますし、生の牛肉・鶏肉やレバーによる食中毒も毎年のように報告されています。豚肉に限らず、新鮮な牛肉や鶏肉であっても食中毒菌に汚染されていることがあるため、食肉は、十分加熱することをお勧めします。
SPF豚は無菌豚ではない
「SPF豚」のことを「無菌豚」と記載して販売されていることがありますが、「SPF豚」は、豚の健康に悪影響を与える“特定の病原体がいない”豚のことであり、決して“無菌”なわけではありません。ですから、「SPF豚」であれば生で食べても食中毒にならないというわけではありませんので、注意が必要です。
生で食される食品は無菌ではない
これまで見てきたように、生で食される食品といっても無菌なわけではありません。そのため、 「汚染防止」、「増殖防止」及び「殺菌」の食中毒予防の3原則を意識しながら、要冷蔵のものは冷蔵庫の中で保存し、消費期限を参考にして早めに食べ切るなどの注意が必要です。特に、抵抗力の弱い方は、食中毒の症状が重くなる可能性がありますので、乳幼児や高齢者等は、できるだけ加熱したものを食べることをお勧めします。なお、生の食品に限らず、食品が食中毒菌に汚染されていても、見た目、味、においではわからないので注意が必要です。
「加熱さえすれば」では防げない
加熱を十分に行うことで、もし、食品中に食中毒菌がいたとしても殺すことができます
目安は、中心部の温度が75℃で1分間以上加熱することです
ただし、加熱温度と加熱時間によって、死滅または生残する微生物は異なります
“加熱”は、有効な殺菌の手段であり、一般に、加熱を十分に行うことで、もし、食品中に食中毒菌がいたとしてもほとんどの菌は殺すことができます。しかし、加熱さえすれば、必ずしも食中毒を防げるわけではありません。
殺菌と滅菌の違い
「殺菌」とは、食品の安全性や品質を損なう菌を殺すことであり、それ以外の菌は生存している可能性がありますので、必ずしも“無菌”の状態になるわけではありません。一方、「滅菌(めっきん)」は、全ての微生物を死滅させる方法であり、これにより“無菌”の状態になります。
二次汚染とは
加熱をしても必ずしも食中毒を防げない理由のひとつとして、二次汚染が挙げられます。食品の原材料が汚染されることを一次汚染といいます。一次汚染されていても、加熱等により殺菌することで食中毒菌は死にますが、その後、再度食中毒菌が付着することを二次汚染といいます。二次汚染によって、一度加熱した食品でも食中毒の原因になることがあります。
焼肉を例にすると、生肉が食中毒菌に汚染されている(一次汚染)場合、生肉をつかんだ箸にも食中毒菌がついてしまうので、その箸で焼いた肉をつかむと、加熱後の肉も食中毒菌に汚染されてしまいます(二次汚染)。
もうひとつの理由として、「芽胞」を形成する菌や「耐熱性毒素」を産生する菌の存在があります。「芽胞」や「耐熱性毒素」は、熱に強く、通常の加熱では毒性を失いません。
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食中毒予防の三原則
食中毒予防の三原則は、「付けない」「増やさない」「やっつける」です。
また、食中毒は食中毒菌によって、予防法が異なります。ここからは、現在も多く発生している代表的な食中毒菌の特徴・症状・原因や予防法を見ていきます。
参考:公益社団法人日本食品衛生協会 知ろう!防ごう!食中毒(食中毒菌などの話)
出典:厚生労働省
ここでは、2020年現在、どのような食中毒が発生しているのか。どの様な場所で発生しているのかを、厚生労働省のデータを参考にしながら解説していきます。 テレビなどで食中毒のニュースを見たことがある方もお ... 続きを見る
飲食店 データで見る食中毒の原因
アニサキス
特徴
クジラや海獣類が本来の宿主です。
かつては寒流域の魚類に寄生していることが多かったのですが、気候温暖化の影響でカツオ等を原因とする健康被害も増えています。
サバ、サケ、アジ、イカ、イワシ、サンマ、タラ、カツオなどに取り込まれた虫卵は幼虫となって、魚の内臓漿膜面で静止しています。魚等が死んで、鮮度が落ちてくると内臓漿膜面から筋肉に移動します。体長2~3㎝の太い糸状の線虫で、漿膜面でとぐろを巻いている状態を目で見ることができますが、筋肉に移動すると、見つけるのは容易ではありません。
-20℃24~48時間の冷凍で死滅しますので、魚介の生食の安全を確保するには凍結処理も有効です。
潜伏時間・症状等
アニサキスが寄生した生魚を食べてから、通常は、2~8時間後に起きます(胃アニサキス症)。まれに10時間以上過ぎてから起きます(腸アニサキス症)。
胃アニサキス症では虫体の胃壁穿孔によって、激しい腹痛、悪心、嘔吐を起こします(胃アニサキス症)。腸アニサキス症では腹膜炎を起こすこともあります。
予防法
- 魚を丸で購入する時は、鮮度のいいものを購入し、できる限り早く内臓を取り除きます。さらに、料理する時によく見てアニサキスの幼虫を取り除きます(ただし全て取り除くことは困難です)。
- 加熱は、アニサキスを死滅させますので有効な予防法です。
- 冷凍処理(-20℃以下で24時間以上)でアニサキスは死滅します。
- 普通の料理で使用する量の塩、酢、わさびなどではアニサキスは死にません。
- 魚の内臓を生食するのは、危険ですのでおやめください。
カンピロバクター
病因物質別事件数では、二番目に多いカンピロバクター。また、一度に発生する患者数では、40.1%とすべての食中毒の中では一番多い患者数となっています。
特徴
近年、細菌性の食中毒の中で、最も発生件数が多くなっています。鶏や牛などの家畜や、ペット、野鳥、野生動物などが保菌しています。大量食鳥処理工程では鶏個体間の汚染が避けがたいため、市販流通鶏肉の多くが本菌に汚染しているといわれています。少量の菌数で人に食中毒を起こします。冷凍・冷蔵庫の中で長期間生存しますが、加熱には弱い細菌です。
症状
原因となる食品を食べてから、平均2~3日の比較的長い時間を経て発症します。腹痛、下痢、発熱、頭痛、嘔吐等を起こします。
原因食品
鶏のたたき、鶏肉、鶏レバーの生食や調理時の加熱が不十分なものが原因となることが多く、また、少量の菌数で発症するため、冷蔵庫内や調理器具、手指等から他の食品に、この細菌が付くことでも起こります(この場合は、惣菜類などのさまざまな食品が原因となります)。また、不十分な殺菌により井戸水や湧水を原因とする食中毒も起きています。
予防法
- 生又は加熱不十分な鶏肉や鶏レバーを食べない。
特に鶏肉などの食肉は、十分な加熱(中心部を75℃以上で1分間以上)を行う(生煮え・生焼きの食肉に注意。)。
(豚肉、豚レバー、牛肉、ジビエなどについてもE型肝炎ウイルス、サルモネラ属菌、腸管出血性大腸菌等による食中毒を防ぐ観点から生での摂食はしない。) - 生の鶏肉や牛・豚レバーなどを調理した後は、手指や調理器具を十分に洗浄します。
調理器具や食器は、熱湯で消毒し、よく乾燥させる。 - 保存時や調理時に、肉と他の食材(野菜、果物等)との接触を防ぎます(保管容器や調理器具を分ける等)。
- 未殺菌の飲料水、野生動物などにより汚染された河川水・沢水等の環境水を摂取しません。
ギラン・バレー症候群
(近年はフィッシャー症候群と呼ばれることが多い。(日本神経学会))
カンピロバクターに感染した後、数週間たってから、1~2%の患者に、手足の麻痺や顔面神経の麻痺、呼吸困難などの「ギラン・バレー症候群」を起こすことがあります。菌体を攻撃する免疫物質による神経組織傷害が原因と言われています。症状が非常に重篤になる方もあり、呼吸筋麻痺で死亡、下肢の麻痺などの後遺症を残す場合もあります。
ノロウイルス
事件数も多く、また、患者数も多く発生することから、飲食業に関わらない人でも聞いたことがあるノロウイルス。
特徴
空気が乾燥する冬場を中心に、起きやすい食中毒ですが、近年は夏場でも普通に発生が見られます。ノロウイルスは、細菌よりさらに小さく、人の体内(小腸)でしか増えません。自然界での抵抗性が強く、長期間生存します。10~100個と、非常に少量のウイルス量で人に食中毒を起こしますが、食品を食べることで起こる食中毒以外でも、吐物や便、トイレ等で感染することがあります。
症状
原因となる食品を食べてから、平均1~2日程度で発症します。下痢、嘔吐、発熱、吐き気、腹痛を起こします。症状は2~3日で治まりますが、発症後2~3週間はふん便中にノロウイルスを排泄し続けるケースが多く、陰性確認と日頃からの健康チェック・的確な手洗いが重要です。
原因食品
加熱不十分な二枚貝の喫食による場合が2割、調理する人の手指などを介して、ノロウイルスが食品についたことが原因となる場合が8割程度です(パン、菓子、きざみのり、すし等のあらゆる食品)。吐物や下痢便がチリホコリとなったものを吸い込んで感染する場合もあります。いずれにしても患者等のふん便が口から入ることによっておこります。
予防法
- 日頃から衛生的な手洗いを行います。特にトイレ使用後や調理前には十分な手洗いを。
- 二枚貝を加熱調理する場合は、十分に加熱します(中心温度85~90℃90秒間以上)。
- 下痢や嘔吐等、体調不良時には調理しません。家族に嘔吐や下痢をしている人がいる場合も手洗い・体調管理に気をつけます。残菜は密封して捨てます。
- 吐物処理やトイレ清掃は使い捨ての手袋、マスクを着用して行い、吐物・使用済み資材はビニール袋に入れて密封して捨てます。1000~2000ppm次亜塩素酸ナトリウムによる清拭消毒も行い、使用済み資材は同じ袋に入れて捨てます。
- 衣類やカーペットが吐物で汚れた場合は、他にウイルスを拡散しないように注意深く汚れを落とし、熱湯などで消毒します(汚染を拡大しない処理は難しいので、廃棄した方が良い場合もあります)。
- 調理器具や調理台などは、いつも清潔にし、熱湯や次亜塩素酸ナトリウムで消毒します。
上記では、近年、最も発生率の高い三つの食中毒の特徴・症状・原因・予防法を見てきました。すべてに共通する予防としては、まず、手指や調理器具の十分な洗浄と消毒です。
これを実行したうえで、それぞれの食中毒に対する予防法を実践しましょう。
黄色ブドウ球菌
健康な人でも、鼻や髪の毛、皮膚などにいる黄色ブドウ球菌
仕事中に、髪の毛や耳(ピアス)などを触るのは厳禁です。
特徴
人や動物の皮膚や鼻腔など広く自然界に分布します。手指の化膿創やニキビなどには必ずいますが、健康な人でも鼻や髪の毛、皮膚などに2~4割の割合で保菌しています。分裂する際に毒素を産生し、一度作られた毒素は加熱(100℃30分)にも耐えます。食中毒は、この毒素により起こります。
潜伏時間
原因となる食品を食べてから、1~5時間、平均3時間程度で発症します。
症状
突然の吐き気と嘔吐や腹痛、下痢を起こします。
原因食品
調理する人の手指から、この細菌が食品につくことが原因になることが多いので、手指を使用するおにぎり・サンドイッチ・弁当・和洋生菓子などの様々な食品が原因になります。
予防法
- 調理前にはよく手を洗います。
- 手指に傷があるときには、できる限り調理しない。傷口を覆って使い捨てゴム手袋装着。
- 調理中に髪の毛や顔などに触らない(顔にかかる髪の毛はまとめる、三角巾等装着)。
- 下ごしらえから、調理、食べるまでの時間はなるべく短時間にします。
- 常温放置が長時間となった原材料・食品は廃棄します(再加熱による再生はできません)。
- 調理器具の洗浄・殺菌を十分に行います。
腸管出血性大腸菌
特徴
潜伏時間
原因となる食品を食べてから、およそ、3~8日程度の比較的長い時間を経て発症します。
症状
腹痛、下痢(水様便その後血便になることあり)などを起こします。また、症状が出てから数%の患者が、2週間以内に溶血性尿毒症症候群(略してHUS)を起こして、重症化する場合や死亡例もあります。3類感染症に該当し、診察した医師は行政に届出義務があります。保菌状態となる場合もあり、検便から検出された場合は陰性が確認できるまで調理に従事することはできません。
原因食品
加熱不十分な食肉・内臓肉(牛だけでなく豚・馬の例あり)、またそれらによって汚染された食品、牛糞堆肥等で汚染された生食用野菜・浅漬け・水などが原因となる。
予防法
- 食肉類は、買い物の最後に購入し、要冷蔵・要冷凍の食品は、帰宅後に直ちに冷蔵・冷凍庫に保管します。
- 食肉類は、他の食品類と接触しないように、保管容器や調理器具を分けます。
- 調理前や、食肉類に触れた後は、良く手を洗います。
- 調理器具類は、洗浄し、熱湯などで消毒をします。
- 食肉類の生または加熱不十分な状態での喫食は避けます。バーベキューや焼肉では十分な(中心温度75℃1分間以上、完全に煮肉色となるまで)加熱、生肉用トング・箸の他用途使用禁止、生肉に添えたレタス等を喫食しないなどのルールを守って楽しむことが重要です。特に乳幼児やお年寄りは、加熱調理の徹底が必要です。
- 冷凍そうざい半製品(例:凍結生メンチカツなど)の中には、生のミンチ肉(挽肉)を使用している場合もあります。表示された調理方法(揚げ油の温度や鍋への投入数など)で適切に加熱調理することが必要です。
- 生野菜も流水で洗浄を。必要に応じて次亜塩素酸Na消毒(100ppm10分浸漬など)を行います。
- 動物に触れた後は手洗いをします。
腸炎ビブリオ
かつては夏場の食中毒原因菌のチャンピオン。生魚専用の包丁やまな板、ダスターを用意して、使用後は、その都度、手洗いを徹底しましょう。
特徴
海底の泥のなかに生息する細菌で、塩分(2~5%)でよく発育します。海水温度の高くなる夏場には、海産魚介類の体表・エラ・内臓等に付着しています。気温30℃では8分で1回増殖するなど増殖速度が速く、かつては夏場の食中毒原因菌のチャンピオンでした。4℃以下では、ほとんど増殖しません。このため、冷蔵庫や保冷車等の普及に伴い、また、平成13年の国の通知以降、発生件数は急激に減少しています。
また、当該20 年間の年次推移を図示(図2)すると、1998 年をピークに食中毒事件数及び患者数の報告数が年々減少しています。
② 月別発生状況
2005~2009 年の腸炎ビブリオ食中毒の月別発生状況によると食中毒の発生数は8月をピークとし、7~9月に多発しています。
潜伏時間
原因となる食品を食べてから、平均12時間程度で発症します。
症状
激しい腹痛・水様性の下痢、発熱、嘔吐を起こします。
原因食品
生で食べる魚介類(すし・さしみ(貝類を含む)など)が多く、また、生魚に触った手指やまな板などから、他の食品にこの細菌が付くことにより原因食品となる場合があります(一夜漬け・魚介加工品など)。
予防法
- 魚介類、刺身・すしは低温管理する(買い物の最後に購入、氷や保冷剤で冷やして自宅に運ぶ、自宅では、短時間であっても冷蔵庫(できれば、4℃以下)に保管など)
- 鮮魚介類を調理する時は、食品製造用水でよく洗います。
- 下処理や調理の前後は調理器具や手指の洗浄を十分おこない、包丁・まな板等の器具は下処理用・刺身用またはその他肉・野菜・調理済み用等で使用区分します。
- 調理した刺身などの鮮魚介類は、食べる直前に冷蔵庫から出し、2時間以内に食べきります。